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福島原発----想定範囲の地震で起こった惨事の原因 [原発]

福島第一原発の事故はマグニチュード9.0の未曾有の大地震によるものとされているが、直下型ではないので、実は震度6強の想定内の地震でしかない。では、なぜこのような惨事になったのだろうか。それを考えてみよう。

この原発に着工したのは1967年、原研による原子力開発が安全重視でなかなか実用炉に進まないことに業を煮やした政府が、民間企業による直接建設を決めた。全く原子力に何の経験もない日立、東芝が建設を担当し、ゼネラルエレクトリック社の図面どおりに作ればなんとかなるとして建設したものだ。アメリカの外圧に弱い国策の間違いが根底にある。

もともとのGEの設計にはもちろん地震など考慮してなかったのだが、日本が地震国であることは知られていたので、とにかく頑丈に作る配慮はなされた。当初は津波に関しては全く考慮されなかった。チリ地震津波などもあったので、津波に対する検討も後には行われたが、波の圧力に対しても十分耐えうるという評価だった。事実、今回の地震に関しても原発建屋はびくともしていない。確かに強度は十分に設計されていた。

原発は何重にも安全装置が施され、地震の場合は有無を言わさず制御棒が挿入されて連鎖反応は停止するように作られている。これはうまく働いた。しかし、停止しても崩壊熱は続く。元々が百万Kwの大熱量を発生するものだから1万分の一なったとしても100kWだから、非常に大きな発熱が続く。どうしてもこれを冷却する必要がある。

これにはECSSと呼ばれる緊急冷却装置があり、原子炉の各部を冷却する仕掛けが、何重にもあり、1つや2つの故障ではびくともしない設計だ。しかし、ここに一つの大きな盲点があった。これらの装置は全て電気で動くので電力がなければ、何重になっていようと関係なく働かなくなる。

なぜこれほどまでに電力に頼っていたか? 原発は大電力の発生装置であり、しかもここには6つの原発があるし、すぐ北にも第二原発がありその全てが動かなくなるという発想が無かったといえる。だから近隣の東北電力から受電するという配線は考えられていなかった。しかし、地震に対しては有無を言わさず全ての発電機が止まるのだから、実際には発電機が全部止まり、完全な停電になるのがむしろ当たり前だろう。

原発は用心深い。もちろん全停電も想定外ではなかった。8台のジーゼルエンジンによる非常用発電機が用意されていた。頑丈な建物に保護されたこれら全ての発電機が故障するとは考えなかったのだ。非常用発電機は波を被ったくらいで壊れるちゃちな作りはしていない。しかし、事実としては8台全部が故障した。

なぜ、8台全部が故障したのかまだはっきりとはわからないが、おそらく、地震発生と同時に停電し、直ちに非常用電源に切り替わったのだろう。なるべく早く電源を起動するという発想が大間違いだった。その後の経過をみれば直ちに非常電源を使う必要はなく、1時間くらいは停電のままでよかったとも言える。

地震が起きて、非常用発電機が運転を始め、しばらくしてから津波がやってきた。高圧電気を発電中に導電性の塩水を被ったのではたまらない。あちこち火花が飛び、放電で部品が溶解してしまっただろう。発電機はちょっとやそっとの修理では修復不可能な損傷を受けた。

最後の砦は電池による8時間の運転だった。燃料の冷却には何週間もかかるのだから8時間で足りるはずがない。訓練ではいつもすぐに発電機の故障が短時間で直っていた。しかし、交通が寸断された状態では部品の調達もままならない。誤操作で大きな損傷を受けた非常用発電機が8時間以内に回復することはあり得ないことだった。都合よく想定しすぎたと言える。

ECSSが働かなくなって、停電が長引くとしたら、もう海水を入れて炉を水浸しにする以外に打つ手はない。原子炉の底は建屋の地下部分にあり、海水レベルより低いからバルブを開ければ海水が入る。これにポンプはいらない。格納容器にある程度水を入れれば、炉心の少なくとも底は冷やされる。もちろん保護容器の内圧が上がれば海水も入らないのだから、空中に放射性の排気をするほかない。

この決断がなかなかなされず、他に打つ手がないのに一日以上長引いた。圧力が上昇するギリギリまで何も手を打たず、補償問題を恐れて排気すらしなかった。このために炉心溶融を起こしてしまった。おそらくこの時、保護容器本体は無事だったとしても配管などに穴が空いて放射能が漏れ出した。熱変形と高圧のため配管継ぎ目のフランジから漏れが発生することは過去の原発事故でもよく起こっている。中央制御室での放射線量の上昇が報道されているから漏れが起こったことは間違いないだろう。

漏れ出したのは放射能ばかりではない。高温になった燃料表面での水蒸気の分解で生じた水素が建物上部に漏れ出して溜まった。やがてこれが爆発し建物上部が吹き飛ぶと言うことになって放射性物質が飛散した。スリーマイルアイランドを上回る惨事になった。この時点になってやっと海水による冷却に踏み切った。時すでにおそしである。

長引く停電は、使用済み核燃料にまで危機をもたらせた。水漬けにしてある使用済み核燃料も発熱はあるからプールの水は冷やさなければ温度が上がってくるし、蒸発も多くなる。しかし事故の対応では使用済み核燃料のことは忘れ去られてきた。4号炉には1千本を越える大量の燃料棒があった。これも水素爆発が起こるまで放置されたあげく、焼け石に水の放水パフォマンスが演じられた。東北電力からの電線がつながり、なんとか回復のきざしが見えだしたのは10日も過ぎてからのことだった。

こうして原子炉はすべての冷却手段を失い。炉心溶融から放射性物質の放出に至るこの型の原子炉では最悪の事故シナリオに陥ってしまった。炉心や格納容器の気密も破れ、スリーマイルアイランドの一桁上の放射能をばら撒く結果となった。周辺の被害が甚大なものとなっただけでなく、日本全体も沈没に引きずりこんだ。

決して想定外の大地震ではなかった。想定の中身が甘かっただけである。安全に絶対はない。ここまでは大丈夫だという限界を明確に示しておくべきだと思う。今回の事故も、安全確保シナリオを公開して、一般の意見を求めておれば、誰かが疑問を呈したに違いない。世論の批判を恐れて「専門家」のお墨付きを盾に一切を隠すやりかたが根本的な間違いを招いた。非常用発電機が海側に配置されていることの不具合などは素人でも気が付く。安全には民主主義が必要なのだ。

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