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原発の「安全神話」と「危険神話」 [原発]

福島原発の事故前には「安全神話」が撒き散らされていた。事故後は今度は「危険神話」が蔓延しているようだ。放射線は何が何でも危険なもので、科学は人類に厄災をもたらすとする一種の反科学主義に落ち込んでいる。

もちろん、放射線は浴びないほうがいいのだが、どうしても浴びてしまう自然放射線量を考えて、それより小さいものはあまり気にしないのが正しい怖がり方だと思う。自然界にはラドンのような放射性物質があるし、体内にはカリウム40がある。宇宙線もあるから、年間1mSVくらいはどうしてもあびてしまう。これに加えて原発事故由来のセシウムがあるわけだから、心配すべきは1mSVに比べて無視できないレベルのセシウム被爆だろう。

ところが、「危険神話」の信者たちは自然の放射線と原発の放射線は違うと言う。カリウム40の被爆とは長年共存して人間には耐性が出来ているが、人工放射性のセシウムには弱いと理屈付けしている。なんともまあ非科学的な議論ではある。「それは、いくらなんでもおかしい」などと言うものならば「御用学者の言い分と同じだ」と反論されるから困る。御用学者だってすべてがウソな訳ではないのだが、効く耳はもたない。

しかし、考えて見れば全ての人に理解を求めるのは無理だろう。多くの人はわからないなりに信用するか疑うかのどちらかなのだ。原発があまりにいい加減な対応をしていたために、サイエンス全体が不信の目で見られることになった。サイエンス全体が原発事故の風評被害者になってしまっている。

放射線の正体は素粒子であり、ベータ線は電子、アルファ線はヘリウム原子核だ。これがどこから出てこようと粒子はおなじものだ。ガンマ粒子もカリウムとセシウムで違いがあるわけではない。ベータ線やアルファ線はレンジが狭く、人体組織の奥まで行かず、外部被爆の場合には結局ガンマ線に変換されて作用する。

放射線を計測して何から出たかを識別する時にはガンマ線のエネルギーの違いを見る。セシウムとカリウムではエネルギーが違うのだが、これは放射性物質から出たときの初期値の違いに過ぎない。人間の体の中を進みながら、放射線は徐々にエネルギーを失って行く。だから実際に遺伝子が受ける放射線の効果は、幅の広いいろんなエネルギーの放射線のものだ。何から出たものかの違いが出て来ようがない。当然、自然放射能であろうと人工放射能であろうと関係がないことになる。自然の放射線と原発の放射線は違うなどという議論の非科学性はこのようなものだ。

内部被爆の場合は確かに放射性物質による放射線の違いがある。一番遺伝子を壊すのはα線で、自然にあるラドンやポロニウムの影響についてはシーベルト値以上のものが確認されている。しかし、原子炉由来の核子でα崩壊するものはほとんどない。今問題になっているセシウム137もストロンチューム90もβ線しか出さない。γ線もコンプトン効果などで電子対を作り、これが遺伝子を破壊するのだから遺伝子の破壊過程は結局β線と同じ事だ。シーベルトという単位は放射線のエネルギー量にこうした人体影響を評価したものだから、シーベルトで評価する限り外部被爆と区別する理由はないことになる。

内部被爆をわけのわからないものであるかのごとく強調したり、自然放射線と人工放射線の違いを強調したりする非科学性は避けなければならない。

ついでに「安全神話」のほうの非科学性についても述べておこう。100mSV/y 以上の放射線が発ガン確率を上げることは明らかなのだが、100mSV/y以下については、タバコなど他の原因が大きく作用して明確なデータにならない。これを100mSV/yまで安全と言い換える議論が未だに残っている。人間には遺伝子の修復機能があるから、ある閾値まではガンの発生を抑えることができると理屈付けしている。

もしそのような閾値があるなら、タバコなど他の発ガン原因にも閾値があるはずだが、そんなものは見つかっていない。ガンは一個の細胞から始まる。人間の遺伝子修復機能は確率的にする抜けが起こるのだろう。確率なら放射線量に比例するはずだ。現に高線量の領域ではガン発生確率はオフセットなしで放射線量に比例している。放射線は少しでもそれに応じた発ガン確率を持っていると考えるべきだ。ICRPが閾値なしを勧告しているのは、「念のために安全を見て」ではなく、そう考えるのが最も理屈にあっているからだ。

100mSVでガン発生確率が0.5%増えるというのを、現在の発生率の5%が増分だとする曲解もある。正しくは人口の5%が新たにガンになって死ぬということである。これは決して小さいものではない。比例なら、1mSVでも10万人中5人が無差別殺人に遭遇するのだ。秋葉原の事件が毎年起こるようなものだと考えれば「たいしたことはない」とは言えないだろう。

安全神話、危険神話に惑わされること無く、放射線を正しく怖がる知識が必要な時代になっている。
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