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労働力の流動化に解雇の自由は役立つか? [経済]

安倍内閣は日本を世界一企業活動がしやすい国にしようとしているということだ。その中で、労働力の流動性を高めるというようなことが言われている。会社の景気が良くて、どんどん増産したいのだが人手が足りない。増員したいのだが、景気が悪くなった時のことを考えると増員できない。日本では、生産調整のための解雇が難しいからだという。みすみす、ビジネスチャンスを失うことになるし、雇用も減る。またこのため、残業が多くなり、過労死が増えたりするのだと言ったりもする。解雇をもっと自由にすれば、企業活動は活発になるという理屈だ。

こういった生産調整のためとして、近年日本では解雇が難しい正社員の採用を控えて、非正規雇用を多用しているのだと言う。若年労働者の実に30%が非正規労働なになっているのだという。では、これで労働力の流動化が進んだかかというと。そうではない。相変わらず、日本は労働力の流動性が低いといわれている。非正規雇用は、実は労働力の流動化とは何の関係もない。非正規雇用を何年にもわたって続けている場合が多いのだが、このこと自体が流動していない証拠だ。どの会社でも非正規雇用にするのは、コスト低減、つまり低賃金にするためである。

同一労働同一賃金の原則からは、非正規であろうが、下請けであろうが、コストは削減されないはずだ。ところが日本では、「子会社は給料が安くてあたりまえ」とか「大会社は給料が高くて当たり前」といった、封建遺制とも言うべき常識がまかり通っている。本来、労働力の流動化に使われるべき雇用形態が、低賃金化のために使われている。この状況で解雇の自由を導入しても、やはり、低賃金化のためだけに使われるだろう。

自由に首を切られては、労働者はたまったものではない。会社は何のためにあるのか?それは金儲けのためではあるが、では、なぜ金儲けが許されているかといえば、生産により社会を豊かにするからだ。労働者を路頭に迷わすことは社会を豊かにすることではない。社員を食わせるのも会社の社会に対する責任なのである。

そういった本質論はさておくことにして、世の中を進歩させようと思えば、労働力が必要となる場所は日々変化するのであるから、やはり労働力の流動性というものは、必要ではある。短期間集中的に技術者を投入することが必要な大きな開発プロジェクトもある。しかし、技術の蓄積とか継承を考えれば、やはり安定した雇用も欲しい。両者のバランスの問題が議論されていると理解しよう。安倍内閣によれば、このバランスが、日本は雇用確保に傾きすぎているというのである。果たしてそうだろうか?


ヨーロッパでは日本以上に解雇規制は強いから、解雇の自由論者はアメリカと比較して議論しているのだろう。確かに、日本はアメリカに比べて労働力の流動性が低い。アメリカ映画には、「You are fired.」の一言で、すごすごダンボールの箱を持って会社を出て行くシーンが良く出てくる。アメリカでは、基本的に解雇の自由は経営者の権利のように受け取られている。しかし、この権利には代償が支払われていることが日本ではあまり知られていないように思われる。

1年間働いて失業したときの日本の失業手当はたった20日間だが、アメリカでは、州によって異なるが、最高511日(2013年現在)も支給される。それだけではない、失業保険は、日本では労使折半なのだが、アメリカでは全額、会社が支払う。日本の法人税が高いなどというが、こういった社会保険負担も含めれば、むしろ、アメリカに比べてさえ低いかもしれない。日本の労働力流動性が低いのは、失業保険が乏しく、失業に対する恐怖感が高すぎるからだ。

結果的に、スキルを持った労働者も、現在の会社にしがみつき、会社もそれをいいことに、能力に比べたら低い賃金で社員を使い続ける終身雇用が定着しているのだ。
労働力の流動化が本当に望まれるのは、高度な知識を持ったエンジニア層である。ホンダがIMAエンジン技術者を、十分に処遇しなかったら、辞めて、トヨタに移って、少し高い給料をもらうといったことが流動化である。能力のある人をつなぎとめようと思えば、会社は相応の待遇をしなければばならない。

アメリカではボーイングをやめてロッキードに移るというようなことはざらにある。技術者資源をより必要とされる所に速やかに移す。これが、望ましい労働力の流動性なのだが、解雇の自由とは関係のないことであるとは誰にもわかるだろう。失業の恐怖からの解放、転職の自由こそが流動化を促進するものだ。

現在言われている解雇の規制緩和は労働力の流動性とは何の関係もない。こんなものを許していたら、悲惨な社会が生まれ、世の中は疲弊していくばかりだ。




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