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対オーストラリア関税協定(EPA)の得失 [経済]

TTPと平行して協議していたオーストラリアとのEPAが合意したという。日本が、牛肉や乳製品の関税を大幅に引き下げる替わりにオーストラリアは自動車関税を撤廃するというのだ。政府から広報資金を受け取っているマスコミは、こぞって、牛肉が安くなると宣伝しているが、失うものも大きい。

現在、日本の酪農は38%の関税に助けられて、オーストラリアの酪農品と対抗している。これで、日本の農家の酪農事業は壊滅する。これまで、ぎりぎりで輸入品に対抗するために、大規模化を進めてきた。莫大な借金をしてそのための投資をしてきた北海道などの酪農家は、何人かが自殺することになる。文字通り血を流すような譲歩をした協定になる。これに対して得られるものはどんなものだろうか?

オーストラリアも自動車関税をゼロにすると言うのだから、相互的なものだということになるのだが、実はオーストラリアにとって、被害はまったくない。自動車の関税があったのだが、これは高々5%に過ぎない。消費税よりも少ない。何より、オーストラリアには自動車産業がないのだから、国内的に競合するものがない。実はトヨタの工場があるのだが、2017年に閉鎖されることが決まっている。だから、いまさら関税を続ける意味すらないのだ。

自動車税の撤廃が、日本にとってどれくらいの利益になるだろうか? 国産車がないオーストラリアでは、日本車のシェアが拡大するなどということはない。5%の値下げで、大きく販売が伸びるわけでもないだろう。僅かでも自動車産業が潤えば、農家の何人かが死んでも気にしない政府だということだ。これは、恐ろしいことで、今回見放されたのは農家であり、自分は農家ではないから、安心だと思っていたら間違いだ。次は、あなたが犠牲になる番かもしれない。

そもそも、オーストラリアにはなぜ自動車産業がないのか? オーストラリアは早くも1947年に自動車生産を始め、かつてはかなりの国産車があった。それが、全部撤退し、トヨタなどの工場まで閉鎖される。人件費が高いからである。日本のように低賃金で働く人はいない。最低賃金は時給1700円であり、日本の4倍にもなる。日本のように時給700円で働くような人は誰もいないのだ。日本の自動車産業が盛んなのは、低賃金のせいだとわかってみると単純に喜べない。

自動車の生産が人件費の問題であれば、実は関税を撤廃しても日本からの輸出は増えないことが明らかだ。日本の自動車メーカーはすでにASEANに生産拠点を持っている。オーストラリアへはASEANから輸出したほうが便利だ。農業を殺してでも自動車会社の便宜を図ろうとしているが、すでに自動車生産は海外に移り始めている。今や、韓国、インド、ASEANが自動車の輸出国になったし、中国が参入する日は極めて近い。農業を見殺しにした自動車労働者は、次に自分が犠牲になる番が回ってくると知るべきだ。

貿易の自由化は、確かに世界の流れではあり、抵抗し続けることは難しい。だからこそ、時間が必要であり、どの様にして、犠牲を伴わなくするかが政府の役割なのであるが、そのような施策は全く考えられていない。農業に関しては、大規模化ばかりを推進してきて、結局のところ、傷口を大きくしただけである。

同じように、自動車を始めとする、工業も、海外生産の規制は何もなく、低賃金化によるコストダウンばかりを進めてきている。この10年くらいは、外食、宅配、などといった低賃金企業ばかりが伸張した。低賃金で産業を保護するなどと言う馬鹿げた政策のツケは非常に大きなことになるだろう。


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