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エントロピーの正体を説明して見る [雑学]

エネルギーは割とわかりやすい。しかし、エントロピーはわかりにくい。熱力学を使って抽象的な説明をされても、なかなかわかった気がしないのではないだろうか。温度はどうだろう?体感出来るから直感で理解できそうだが、本当は得体が知れない。エネルギー、温度、エントロピーは3点セットで理解する必要がある。抽象的でなく、実体に則した説明を試みる。

熱はエネルギーの形態の一つだということはわかる。当然、大きなエネルギーがあると温度は高くなる。しかし、大きなものは少しくらいのエネルギーで熱くはならない。温度というのは大きさあたりのエネルギーと言えそうだ。しかし、この場合大きさというのは何だろうか? 分子の数でも良さそうだがそればかりではない。気体の場合、分子が飛び回る空間が違えば入るエネルギーの量も違う。しかし、体積としてしまうのもおかしい。固体の場合もあるし、回転のエネルギーを持てる分子もある。

そこで、これらを一般化して状態数ということを考える。体積が大きければそれだけ分子の位置という状態が増える。分子が多ければそれだけ分子配置の状態が増える。何でもいいから、状態があれば、それが熱の入れ物になる。「エネルギー=温度X状態の数的なもの」と考えれば説明がつきそうだ。状態数の少ないものは少しの熱ですぐ温度が上がる。体積とか質量とか回転自由度とか、みなひっくるめて状態で片付く。

熱エネルギーの入れ物の大きさがエントロピーであり、その正体は状態の数だという理解でよさそうだが、この説明で、何でも一緒くたな「状態」として数だけの問題にしてしまうことには引っかかりがある。実際、いろんな状態は決して平等ではない。しかし、このことは後回しにして、今のところは状態ということで、ひとくくりにしておこう。実は先に片付けなければならない問題があるからだ。

それは状態数は常に掛け算になるということだ。(全体の状態数)=(Aの状態数)X(Bの状態数)である。ある温度にある系の全体をAとB、2つの部分に分けて考えてみよう。(全体のエネルギー)=(Aのエネルギー)+(Bのエネルギー)でなければならないのだが、(エネルギー)=(温度)X(状態数)だとすれば、全体のエネルギーは個別のエネルギーの和にならない。

全体で考えた場合と、それぞれに分けて考えた場合で違ったエネルギーになってしまうのだから具合が悪い。この考えの行き詰まりを解決する方法がある。それは

S=Log(状態数)                 (注1)

というものを考えて、これをエントロピーと名づけ、エントロピーが、熱エネルギーの入れ物としての大きさとすることだ。そうすると(全体のエントロピー)=(Aのエントロピー)+(Bのエントロピー)だから、部分で考えても全体で考えても矛盾しない。エントロピーとは、<対数化した状態数>であり、熱の入れ物の大きさを表しているものである。いきなりLogといった数学関数が出てきてしまうのだが、これは状態数を測る物差しが変わっただけのものだ。状態数が2つの場合、エントロピーはLog(2)、状態数がNの場合はLog(N)がエントロピーになる。Log(2)を1ビットと言う。

ここで、先ほどの状態の不平等に話を戻そう。平等な状態数がNの場合、その一つの状態が起こる確率はP=(1/N)だから、エントロピーはS=Log(1/P)=-Log(P)と書いても良い。こうすると1粒子あたりのエントロピーが考えやすい。n個の粒子のエントロピーは-n Log(P)になる。

起こりやすい状態と起こりにくい状態の区別は、当然ある。状態数などということを持ち込むのに抵抗があるとすれば、これがその原因だ。S=-Log(P)と言えるのは、全ての状態の確率が等しい時でしかない。では、それぞれの状態になる確率p(i)が異なるときはどうなるだろう?

Log(1/P)は、それぞれの状態で異なるエントロピーの平均的なものだったと考えるべきだろう。一般にp(i)と言う確率分布があるとき、f(i)の平均は、Σf(i)p(i) になるから、エントロピーも

S=<Log(1/p(i))>=-Σp(i)Log(p(i))

とするのがよかろうということになる。概念の拡張になるが、1つの状態だけが確率1の時はS=0になるし、全部が等しい時は1/Pになるからこれで正しそうだ。状態数を確率に置き換えることでエントロピーの正体がはっきり定義された。エントロピーは確率しかわからない事象を、もし確定するとしたら、そのために必要な情報量という意味合いになる。これで「状態数」にまつわるあいまいさもなくなる。確率ゼロで実在しない状態ならいくらでも数えられるから、状態数などと言うのは、もともと、あいまいな言い方でしかない。エントロピー自体も温度で変化するので、エントロピーあたりのエネルギーと考えた温度も、正しくは

T=dE/dS

と、微分形で書かれる。これで温度とは何かもはっきりした。体で感じられることとは逆で、論理的にはエントロピーとエネルギーで温度が定義される。自然世界を数学で解釈するという奇妙な体験をするのが統計力学である。そのためか、エントロピーについては、俗論が多い。「乱雑さ」などと言う表現も必ずしも正しくない。乱雑な位置に置かれていても、それが定位置となっておればエントロピーが高いわけではないからだ。熱現象のように個々の構成要素の情報がなく、確率としてのみ捉えられる時にエントロピーが生まれる。エントロピーを言葉で表現するなら「確率分布の広がり」とでも言うべきだろう。

エントロピーの重要な役割と言えば「エントロピー増大の法則」がある。念のために言えば、これは、エントロピーが勝手に増大していくと言うことではない。変化がなければエネルギーもエントロピーも一定である。変化が起こる場合は、エントロピーが増大して行き、最大になったところで定常になるというだけだ。

変化がある場合として温度の異なる2つのものを接触させた場合のことを考えてみよう。2つのものの温度はだんだん同一になって行く。単純に状態数といった場合、何の変化もあるわけではない。しかし、エントロピーは状態数そのものではなく-Σp(i)Log(p(i))である。確率分布だから温度によって変化する。

温度が高かったほうのエントロピーは下がり、温度の低かったほうのエントロピーは上がるが、両者の和は増えるという結果になる。(*注2) 逆方向の変化、つまり温度が等しいものが、異なる温度のものに分かれるというような場合は、エントロピーが減少するのだが、そのような事は起こらない。これがエントロピー増大の法則の意味だ。エネルギーだけで考えれば、両者の和が一定に保たれるから、どちらにも変化できることになってしまう。だから世界の変化を理解する原理にはエントロピーが必要になる。

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(*注1) 
普通はボルツマン定数が掛けてあるが、単位系だけの問題として省略する。
(*注2) 
温度の高かったほうをA、低かったほうをBとすると、dSA<0で、dSB>0 だが、全エネルギーは変化しないので
dE=TAdSA+TBdSB=0

これを全エントロピーの変化
dS=dSA+dSB

に入れてdSAを消去してやると
dS=(1-TB/TA)dSB

になり、dSB>0だし、TB < TAだからこれは必ずゼロより大きい。エントロピーは増大したことが示せる。この議論はエントロピーの正体とはかかわりなく、抽象的にそういったものがあると言うだけで、成り立つ熱力学の法則である。これが、エントロピーの正体をあいまいにする原因にもなっている。
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