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「金もうけ」を超えた制度設計 [経済]

資本主義の基本原理は「金もうけは善」にある。世の中の生産やサービスは、ほとんどが民間企業が儲けのためにやっており、それが社会の繁栄をもたらしていると解される。儲けを大きくするには良い製品を作らねばならない。他の会社との競争に打ち勝つためには、より良いサービスを絶え間なく開発しなければならない。儲けは社会に対する貢献の証であり、儲けた人は偉い人と言うことになる。暗黙の了解となっているようだが、もちろんこれに、はっきりとした根拠があるわけではない。

「世の中は金がすべてではない」と声高に叫ぶ人もいるし、これに同意する人がむしろ多いかもしれない。「金もうけは善」には、絶えず疑問が投げかけられている。しかし、こうした叫びは無力だ。確かに世の中は金を中心にして回っている。国の施策にしろ、研究や芸術作品さえも予算があってなり立つ。慰謝にせよ名誉棄損にしろ裁判ではすべて金額だ。全ての価値を金で測ることが粛々と行われている。

全ての価値を単一の尺度「かね」に換算してしまう事が社会の運営を単純化する。価値を金で表現してしまうと、いとも簡単に評価ができることになる。評価ができれば効率化も改革も簡単になる。世に言う「民営化」はもうけを最大にすることが、最大の効率だという原理に基づいて「新自由主義」が提唱されているわけだ。人の効率的配置も手続きの簡素化も確かに最大の儲けにつながる。

しかし、これも根拠のあることではない。儲けを最大にするには、低賃金が一番だし、手抜きさえも役に立つ。原発事故などは儲けを追及することが必ずしも社会への貢献になるとは限らないことの卑近な例になる。価値を「かね」で測ることは、あくまでも一つの便宜的手段に過ぎない。「かね」を中心にした社会運営にはおのずと限界がある。だからこそ「金がすべてではない」という声が消えずに繰り返されるのだ。

儲けの追及が駄目だとしたら何を社会の基本に据えればいいのか。儲けを基本にしない方策が試みられたことはある。「儲け」を通さず、直接的に国民の幸せを計画すると言う社会主義の経済運営は、結局のところ失敗に終わった。ソ連は崩壊したし、中国は方向転換した。これまで試みられた社会主義は、結局、官僚主義が蔓延っただけで、「競争」も「効率化」も失われてしまった。「かね」を媒介にした社会運営がまだしも有効だったのだ。人類はまだ「かね」に変わる指標を見出していない。一方で儲けを追及する運営は限界に来ている。これをどうするかが現代の課題だ。

ドラッガーが晩年に手を付けようとした課題が非営利組織の経営学だった。営利組織の経営は単純明快だ。儲かるようにすればいい。しかし、非営利組織は、そうは行かない。ドラッガーはいくつかのガイドラインを示しているが課題の整理に過ぎない。そもそもこれは、「かね」を中心とした社会の中で非営利組織をどう運営するかといった問題の立て方でしかない。「かね」では買えない価値を認める必要があるのだが、それを定量化することが難しい。

やはり当面重要なことは、儲けのルールを確立して行くことだろう。儲けは厳格なルールに従って追及されなければならない。低賃金には歯止めをかける。環境を破壊してはならない。こういったルールによって儲けが社会への貢献につながるようにする制度設計が重要だ。それが政治の役割である。
金もうけはそのまま善なのではない。ルールによりそれを善に向かわせる必要がある。

ルールの中で一番重要なのは「競争」の確保である。「儲け」を媒介にした社会運営の一番大きな利点は競争にある。「儲け」を目指して競争することで効率を上げられる。しかし、実際には、競争を妨げるものが多い。独占もそうだし、政治を使った利権もそうだ。一番安直な儲けは競争を回避することに尽きる。金権政治、腐敗と言われるものは、競争を回避する裏道を見つけようとするものだ。

重要なのは、ルール破りや競争の回避が常に画策されていると言う認識だ。企業は絶えず独占を狙うし、低賃金を画策する。利権ほど安易な儲け口はない。ルールが甘ければ、環境破壊もやる。国民はこれに対して常に闘わねばならない。実際、独占大企業というのは腐敗した政府以上に官僚的で悪質だ。利益追求が公認されているから始末が悪い。企業秘密ということで、その挙動すら隠蔽してしまう。

こうした「儲け」を「善」に向かわせる闘いを保証するものが民主主義だ。人々の意思が政治に反映されればこうした社会制度が維持されるのだが、現在の状況がどうかと言えば、非常に心もとない。人々の自覚は十分ではなく、小選挙区制など選挙制度にも欠陥があるが、情報操作がなされ、本来監視下に置かれるべき企業体が逆に権力を握る、政治を支配してしまっているのは「財界」だ。人々は政治の本当の役割をまだ認識していないのである。
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