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東洋ゴムの耐震偽装 [社会]

阪神大震災で、高層ビルへの不安が高まった。それ以後、免震構造というものが宣伝されるようになった。高層ビルは安全であるとのキャンペーンである。実際、この後で多くの高層マンションが建設されるようになった。

大きなビルは、鉄骨やコンクリートで固められており、ガタガタした地震のゆれには強い。しかし、ゆーらゆーらと揺れる、長周期の振動にはビル全体が振り子のように揺れて、倒れてしまう可能性がある。高層ビル特有の弱さだ。

そこで免震構造として打ち出したのが、ビルの底にゴムの台座を入れて、地面の振動がビルに伝わらないようにすることだ。ゴムなんかで重たいビルを支えられるのかという疑問があるだろうが、この部材「免震支承」は、薄いゴムの板と鉄の板が何層にも重ねてある。だから、重さで横につぶれてしまうと言う様なことはない。

長周期の振動は横揺れなので、ゴムの層のところで少しずつずれて、振動が伝わらなくできるから、上部の揺れは少ない。しかし、ゴムだからもとに戻ろうとする力が働き、逆にゆれが続いてしまうと言うことが起こる。ここに新たな振動が加われば、積み重なって免震にはならない。だから、振動を減衰させるダンパーと呼ばれるブレーキのようなものが必要になる。

今回、問題になった「高減衰ゴム系積層ゴム支承」と言うのは、ゴム自体がブレーキの役割を担い、ダンパーなしで振動を減衰させてしまう使い勝手の良いものだった。ゴムが、伸び縮みするだけでなく、粘土のように、じわーと変形してもとに戻らない特性を少し持たせてある。

どれだけ伸び縮みして、どれだけ振動が収まるかの性能をあらわすものが、「等価粘性減衰定数・等価剛性」といったゴムの特性なのだが、これに何らかの基準がある訳ではない。ビルを建てる側で、これらの数値を使って設計できればそれで良いのだ。問題は数値のばらつきである。あまり大きなばらつきがあるのでは、設計のしようが無い。

大きなゴム板を作るときには、加硫工程で時間をかけて焼く必要がある。ムラなく焼き上げるには、技術と経験が必要だ。東洋ゴムでは、最終製品の統制に10%以上のばらつきが生じていたようだ。ビルの設計では、数値に余裕をとるので、バラつきを勘定に入れた設計をすれば問題はない。

この製品で圧倒的シェアを持っているのはブリジストンで、東洋ゴムは後追いになった。本社で開発を担当していた社員は、子会社に飛ばされ、子会社「東洋ゴム化工」での生産になってしまった。タイヤなどに比べて売り上げも高くなかったので、人員増もなく、一人で担当することが10数年も続いた。その間昇進とかは無かったと言うことだ。将来性の無い分野に配属された技術者の悲劇だとも言える。

2000年、耐震部材を国土交通大臣が認定することになった。認定と言うと一定の基準数値があって、国が保障しているように響くが、実はそうではない。実際に審査するのは、「日本建築センター」とかの外郭団体である。しかも、この協会が検査を行うわけでもない。メーカーが出してきた書類の数値に対して「認定」と言うだけの協会だ。不合格とか合格ということはない。「国交省認定」というハクをつけて、いかにも高層ビルが安全であるという宣伝をするための仕掛けでしかない。

どんな数値でもいいのだが、認定するためにはばらつきが10%以下であるという基準が作られた。建設する側は、バラつきを10%として設計することになった。顧客への営業、生産工程管理、申請業務、こういったことを一人で担っていた担当者は、納期にせかされ、肯定改善の研究余裕もないままに、申請のデータを少しいじって10%以内のばらつきにしてしまった。これが、今回の事件だ。この担当者が、定年になって、次の担当者が業務を受け継いだが、ばらつきが大きくて認定に出せないことから騒ぎになった。

東洋ゴムは、問題がわかってから、1年以上も事実を隠してきた。その間に、10%以内のばらつきに抑える改善もしただろうし、事件が高層ビルへの疑念に及ばないように国交省との協議もしたに違いない。「免震」装置などと言うが、その効果は、114ガルが90ガルになると言う程度のものだ。「減振」というのがせいぜいだろう。だから、数値を変えて再計算しても、新たに倒壊の危険があるなどと言うことが起こらないことを、あらかじめ予想している。「責任をもって取り替える」などと大見得を切ったはずだ。

追求されるべきは、怪しげな認定制度と高層ビルの安全性そのものである。

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