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インターネットと医者付き合い [医療]

年を取って病気がちになると医者との付き合いが増える。最近の医者はとても言葉遣いが丁寧で、話の内容をメモにして渡してくれたりもする。たしかに、医者は患者を選べない。いろんな患者さんがいるし、インフォームドコンセントといわれ、そのすべてに説明しなければならないのだから大変だ。たぶん接客訓練なども医学部のカリキュラムに入れられているのだろう。こちらも、医者の説明を理解し、感心して聞くと、非常にいい信頼関係が生れる。

ところが、一方で、インターネットが出来て以来、患者のほうでも、治療や薬に対する知識が得られやすくなってしまった。また診断も聴診器などは用いず、血液や心電図などの分析データで行うようになっている。データと教科書があれば原理的にはだれでも診断が出来るのだから、医者のほうでも下手なことは言えない。

私は凝り性だからつい調べてしまい、自分の病気に関しては、治療法も薬剤もしらべ、最新の論文にも目をとおすことになる。実はこのことによって、医者との付き合いが難しくなる。色々と質問が細かくなり、可愛い患者でなくなってしまうのだ。

ある大学病院の外来で、教授に質問したり、持参した論文にある新しい治療法について質問していたら、「そんなに理屈どおりには行かないんです。臨床の現場はそんなものじゃないんだ」「大体あなた方は臨床医をバカにしたりするが....」と言い出した。こちらは一人で、「あなた方」と言われるはずもないのだが、どうやら私のことを生物学系の研究者だと思い込んだらしい。誤解を解くのがたいへんだった。

入院患者を担当する若い医者の場合さらに始末が悪い。データを時系列で見ずに教科書どおりに数値で見てしまう。論文を示して処方に対する意見を言ったりすると自説に固執して意地になる。仕方がないので判断根拠を問い詰めると「総合的に判断するのであって、それを貴方に説明する必要はない」と居丈高な姿勢になる。丁寧な言葉遣いを訓練されてはいるが、優等生独特の高慢さがにじみ出てくる。

「イヤなら別の病院に行ってください」といわれて、私は本当に別の病院のベッドに転院してしまった。いやな患者だと思われていてまともな治療になるはずがないからだ。結果的には私の診断の方が正しかったことが後日証明された。転院先で先生を説得して希望通りの処方をしてもらったら、見事に当たった。

生兵法は怪我の元で医療は素人が軽々しく判断すべきものではない。しかし、医者は様々な病気を知らねばならずひとりの患者を診る時間は数分しかない。患者のほうはこの病気だけに絞って調べるし、入院中ならば論文を丁寧に読む時間も十分あるし、ほとんど全ての論文がインターネットで読めるようになっている。しかも、24時間自分の体と真剣に向き合っている訳だから、症状は一番良くわかる。

だから、医者の知識と患者側の知識レベルはだんだんと近づいていく。なかには不勉強な医者もいっぱいいる。患者は1つしかない命を掛けているのだから100%医者の言うことを聞いていれば良い時代ではなくなった。患者というのは大変な勉強を強いられるの時代になってきたようだ。もはや「医療は自己責任」なのかもしれない。

ガンはなぜ治るのか? [医療]

ガンは不治の病などと言われており、治らないのが当たり前なのだが、治ることもある。春ウコンとか、クロレラとか、枇杷の葉、はては様々なおまじないまで、ガンが治ったという証言には事欠かない。どれもかなりの事例があり、まんざらウソとも言えないから、なぜ治るのかが疑問となる。

ガン細胞が生まれるのは、活性酸素などでDNAが損傷を受けることが発端だ。二重螺旋構造で、多くの損傷は修復されるが、突然変異として残るものもある。残ったとしても、こういった異質な細胞は、ほとんどが増殖機能を失って自滅する。しかし、中には大きな増殖機能を持つものがおり、これがガン細胞だ。多くのガン細胞は免疫力で殺されてなくなるが、とりわけ増殖力が大きくて免役に打ち勝つものがあれば、際限ない増殖が始まり、これが成長してガンとなる。

このガンの成長に、一体どれくらいの時間がかかるものなのだろうか。この成長速度が、この考察のキ-ワードである。ガンの腫瘍を観察しても、その成長がやみくもに早いわけではない。やはり倍の大きさになるには3ヶ月から半年くらいはかかる。これから逆算するとガンは10-20ミクロンを大きさとする一個の細胞から始まって、1cmの大きさで発見されるまでに寸法で500-1000倍、つまり体積で125000000倍から100000000倍に成長せねばならず、27回から30回の細胞分裂が必要だ。これにはに7年から15年、ほぼ10年くらいかかることになる。

さて、ガンに対する現在の主流の考え方は、「手術派」である。ガンを根こそぎ取ってしまえばガン細胞は無くなってしまううと言う考え方だ。取りこぼしや転移による再発が最大の問題になる。ガン細胞は勝手に飛んで行けない。組織が大きくなり、腫瘍内部に血管やリンパ管を形成してから、これを辿ってあちこちにガン細胞を運ぶのだという説に基づき、早期手術こそがガン征圧の決め手だとしている。手術後5年が目安で、それまでに転移がなければ大成功としているから、この場合、先ほど検討した成長速度よりも早く、発生から発見までは5年以下でなければならないことになる。実際、5年では短いが7、8年転移がなければその後も無事に過ごせることが多い。


もし本当に10年以上かかるのだったら、手術後に見つかる転移は、実はもっと前から起こっていたことになる。「転移をする前に早期手術をする」などと言うことは不可能だ。手術で体力を消耗することを避け、ゆっくり成長するガンとの共存を考えたほうが長生きできる。近藤誠先生など「放置派」の理論だ。放置しておいてガンの拡大が止まり、消滅することさえあるようだ。そういったものはガンの個性で決まるという。近藤先生は、転移せず成長が遅いガンを「がんもどき」と呼んでいる。「がんもどき」の場合、どんな怪しげな民間療法でも「治った」実績にはなる。


「放置派」は民間療法だけでなく「手術派」にも手厳しい。成功した手術は単に「がんもどき」を手術したに過ぎないことになるし、再発したガンが進行すれば、手術で進行を早めたことになる。逆に「手術派」からみれば、放置して成長したガンは手術しておれば治ったガンになるし、転移したのは、十分早く手術しなかったためになる。宗教が治らなかったのは「信心が足りなかった」と言うのに似ている。

というわけで、どちらが正しいかという決め手はない。ガンの成長速度がはっきりすれば、この論争に一定の決着がつくのではないかと思われる。ガンがどれくらいの成長速度を持っているものかが理論の分かれ道なのだが、両者を成り立たせることもできる。そのためには、ガンの成長速度は、始め早く、だんだん遅くなって行くと考えるのが良いのではないだろうか?そうすると3、4年でガンが現れることもあってよいし、10年経っても大きくならない事とも矛盾しない。

もともとヒトの細胞にはヘイフリック限界と言われる分裂回数の制限があり、大体60回くらいで分裂しなくなる。分裂毎に遺伝子の端末部分であるテロメアが短くなり、一定以下になると分裂しない。ガン細胞はテロメアを自分で延長してしまうと言うことだが、テロメア酵素にも限界があり、完全というわけにはいかないだろう。

ガンの細胞分裂がだんだん遅くなるとすれば、放置しておいてもいつかは縮小することになる。こういったガンがかなりあるというのが、放置して直る場合のことだ。ガンが縮小する前に体力が尽きればガン死となる。手術や放射線、抗がん剤で人工的にガンを縮小すれば、自然に縮小することが始まるまでの時間稼ぎができる。ただし、体力の消耗が伴うなら、逆効果もありうる。様々な民間療法も、体力を強化して、ガンの縮小が始まるまでの時間稼ぎにはなるだろう。おまじないだって、気力を高めて、時間稼ぎには有効なこともある。というわけでガンが様々な方法で治ることもあることは理解できる。

ガンが最も純粋な形であらわれるのが血液ガンだ。これは固形ガンのように組織をもたないから、体力とか機能強化があまり影響しないし、急性の場合勝負も早い。だから民間療法や宗教からは対象外とされることが多い。「末期ガンからの生還」はよくあるのだが、「末期白血病が治った」を謳う民間療法は見かけない。血液ガンの中でも慢性骨髄性白血病(CML)は、最近ではイマチニブのような分子標的薬が開発されて、ほぼ確実に人工的にガン細胞の増殖を止められるようになったから、民間療法や放置療法の出る幕はない。

CMLの場合、3年くらい薬で増殖を抑制したあと、薬を止めても再増殖は起こらない場合がかなりある。この場合も、その間にガン細胞自体の分裂速度が遅くなったからだとすれば説明できるのではないだろうか。

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丸山ワクチンとオプジーボ [医療]

 丸山ワクチンは、ガンの特効薬と言われたり、全く効かない薬だと言われたり、極端に評価が分かれたまま半世紀を経過した薬だ。なぜ、このようなことになるかと言うことになるのだが、これは丸山ワクチンが特異な開発経過で生まれたことと、免疫強化型の薬剤の宿命とも言える事情が重なった結果だ。

丸山ワクチンは、ガン研究者ではなく、皮膚科の臨床教授である丸山氏によって開発された。結核患者にガンが少ないと言うことを感じた丸山氏が、結核菌からの抽出物を無毒化して薬剤とした。なぜこれがガンに効くのかは不明なのだが、ともかく投与された患者からは高い評価を受けた。丸山氏はこのワクチンをガンの特効薬として熱心に広めた。このやり方は学術的な手法ではなく、効果を統計的にはっきりと示す手順も踏んでいなかった。

使い方としては、濃い薬剤と薄い薬剤を一日おきに交互に皮下注射するという変わったものだが、なぜそのような使い方をするのかと言う根拠は示されない。ただ丸山氏がこう決めたに過ぎない。作用機序についても、免疫を強化するのだと主張するが、その詳細を解明する論文は出されていない。こういった科学的裏付けを軽視する手法が学会からは疎まれることになった。

結局、保険適用の薬剤としては認可されなかったのだが、偽薬として使用が禁止されたわけではない。「有償治験」つまり、研究段階の薬剤であるが、その治験に参加する患者から料金を保険外で取っても良いという状態が半世紀も続いているのだ。統計を取って科学的に効果を実証することは出来ないのだが、患者側からの評価は高いといった状況の反映だと言える。これまでに、40万人もの人が丸山ワクチンを使った。

なぜ丸山ワクチンの評価が高いかというと、「効いた」と考えている患者さんが多いからだ。丸山をクチンは、生物学製剤で、中身は結核菌の生成物であり、いろんな成分を含んだ生薬のようなものだ。どの成分がどのようなメカニズムでガンに効くのかは一切分かってていないのだが、雑多な成分がガン以外のところで作用することがある。

丸山ワクチンを使った患者さんが、「体が楽になった」とか「かゆみがなくなった」「気持ちが晴れる」といった実感を持つことが多いようだ。こういう効果をもたらす薬はいっぱいあるのだが、抗がん剤でこんな効果をもつものはない。抗がん剤は強烈な副作用で患者に苦痛を与えるのがむしろ普通だ。だから、統計的に実証される効果以上に体感として効果ありと感じる人が多い。副作用がなく、保険不適用にもかかわらず値段が安いというのも、人気の源だろう。

なぜ効果を実証したと認められないかについて、陰謀説や利権説が出て、話がややこしいことになっているのだが、「免疫強化」という薬剤は一般に効果の証明が難しい。ウコンとかアガリスクといった民間療法も、多くは「免疫強化」を謳っている。免疫の実態がよくわかっていないので簡単に評価ができないのだ。

免疫強化型の薬剤は、免疫力を高めてそれでガンに対処しようというもので、細胞を攻撃するものではないから副作用も少ない。しかし、その作用は間接的でしかない。もともと人間には免疫機構があり、これがガンの発生を防いでいるのだが、ガンになったということは、すでに免疫は一度突破されてしまったということだ。いまさら免疫を強化しても発生の防止には手遅れであり、すぐに劇的な効果を期待できるわけがない。

免疫強化の効果は、むしろガンの成長を遅らせると言った形で現れるはずだ。ガンの成長が緩やかになると、がん細胞にも寿命があるから、やがては、成長が止まったり、縮小したりすることも起こる。しかし、腫瘍の増大が緩やかになったとしても、増大している事には変わらないので、ただちに効果を証明することにはならない。効果が現れるためには時間がかかるとなると、当然その間に体調の変化や、病状の進展があり、効果の判別が難しくなる。ゆるやかな効果だから他の薬剤とも併用される。これでまた効果の確認が困難になる。

通常の抗がん剤は、直接がん細胞に作用して、がん細胞を叩く。正常細胞をも叩いてしまうので、副作用が激しい。しかし、一時的であるにせよ腫瘍が縮小するといった結果が目に見えるので効果の確認は容易だ。一時的な縮小が、実際の延命につながっているかと言うと、そうでもない。叩かれたガンは一時的に縮小しても、耐性が生じて、また大きくなり出すのが常だ。

本当の効果判定は、一時的なものではなく、がんという病気がが克服できるかどうかなのだが、この点ではどの薬剤もはっきりした効果を示していないのが現実だ。直接がん細胞を叩く薬が「効く」と評価されているのは、一時的な効果が見えるだけの事にに他ならない。目に見える一時的効果がない免疫強化型の薬剤は、あやふやな効果しか示せない。

だから、免疫強化型の薬剤が効果判定されることは少ない。クレスチン、ピシバニールなどといった薬が、なんとか効果が認められるという統計データを出して認可されたことがあったが、結局は後日効能が否定されることになった。こういった薬が、効能を否定されるまでの間に、莫大な売り上げを記録したことも、丸山ワクチン潰しの陰謀論を生み出すもとになっている。

しかし、免疫強化型の薬剤にも転機が訪れた。最近、開発されたニボルマブ(オプジーボ)も免疫強化型の新薬だが、はっきりとした効果を示すことが出来て、保健薬として認可もされた。値段が極めて高いことが問題になっている。丸山ワクチンとどこが違うかというと。分子標的薬で作用機序がはっきりしていると言うことだ。

T細胞が ガン細胞のアトポーシスを誘導するという免疫をになっているが、この働きを止めるスイッチ(PD-1)が表面に出てしまっている。がん細胞の方が、PD-L1などを用意してT細胞のPD1と結合することでT細胞を不活性にしてしまうので、この免疫機構はうまく働かない。ニボルマブは、このPD-1に蓋をしてT細胞を再び活性化する。作用機序がわかっているから、適応症も見つけ易い。悪性黒色腫に限って治験することで奏効率22%が得られた。22%は、あまり高い数字と感じられないかも知れないが、丸山ワクチンなどは、この基準で判定すれば1%以下になるだろう。

ニボルマブの登場で、免疫強化型のガン治療薬は、新たな展開が期待されるようになった。免疫機構の解明が進めばこうした新薬が次々と生み出され、一時的な効果だけで可否を問われていたがん治療薬の基準も変わっていくだろう。民間療法が強調する「免疫力」といった得体のしれないものに振り回されることも少なくなっていくだろう。

ガンはなぜ治るのか?(2) [医療]

以前の記事でガンはなぜ治るのかという議論をした。ガン細胞の増殖は最初の勢いを徐々に失って行くという考え方だ。こう考えるとガンは発生から目に見えるようになるまで急速に大きくなり、それ以後の増殖速度が観察と一致するようになる。中には増殖が止まってしまい、細胞の寿命で消えていくガンも出てくる。これが「ガンが治った」というケースになるし、「がんもどき」も、こういったものだ。

この「活性減衰仮説」とでも言うべきものが正しければ、抗がん剤などによる延命処置も、体力さえあれば長寿命につながる可能性がある。ガンのほうが弱まってくるからだ。慢性骨髄性白血病などでは、すでに抗がん剤を止めてもガンが復活しない事例が多く蓄積されている。

これをもう少し定量的に裏付けることは出来ないだろうかと考えていたら、国立がんセンターが、ガンの生存率データを公表した。ガンになった場合、どれだけ生存率があるのかということを10年に渡って示したものだ。

ガンが救われないものであるとしたら、生存率は、ある時定数で下がって行く。ガンの活性が減衰するものならば時定数が次第に大きくなって行く。

[生存率]=Exp[-t/([初期余命]+[余命延長率]×t)

といった式であらわされることになるだろう。これが国立がんセンターの統計とどれくらい一致するだろうかを試してみたのが下のグラフだ。縦軸が生存率、横軸は年数である。黒い点がデータ、赤い線が仮説にもとづく式だ。パラメータは2つだけなのだが、すべてのガンについて驚くほど良く一致することがわかる。
cancer1.jpg cancer2.jpg

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